お金だけで人の心は動かせない ~NASA ケネディ・スペースセンター編

NASA ケネディ・スペースセンターは私の聖地の一つです。

宇宙に興味をもったきっかけは、子供の頃、田舎で見た満点の星空。都会っ子の私には、頭上いっぱいに星が瞬き、今にも星に手が届きそうなほどの夜空が恐ろしいほどでした。同時に、その美しさに見せられ、子供向けの宇宙図鑑や星座の早見表、その続きでギリシャ神話、西洋占星術など貪り読んだものです。

また、当時は素晴らしい宇宙科学の番組がたくさんありました。

カール・せーガンの『COSMOS』を筆頭に、NHKの『ザ・プラネット(惑星だったかも。八神純子が「ミスター・ブルー」の主題歌を歌ってました)』、タイトルは覚えてないけども、民放でも宇宙をテーマにした番組はいろいろあったし、果ては矢追純一の『UFOスペシャル』まで、かじりつくようにして見ていたものです。

もし、スペースシャトル乗組員の一般公募が私の小学校時代にあったなら、きっと目指したと思います。向井千秋さんが手を上げた時には、私には遅すぎたのです(T_T) 今から化学、数学、物理学? 無理無理、みたいな。

それでもNASAへの憧れは果てしなく。

初めて訪問したのは2001年冬。この夏が二回目の訪問になります。

ゲート前。

NASA ケネディ宇宙センター ゲート前

エントランス広場。

NASA ケネディ宇宙センター エントランス

スペースセンターの主要なイベント。敷地内のバスツアー。各施設を遠くから眺めるショートツアー、工場や管制塔の内部に入って間近に見学できるスペシャルツアーの二通りあります。

NASA ケネディ宇宙センター バスツアー

バスの窓の向こうに、スペースシャトル生中継でお馴染みの建物が見えてきます。

NASA ケネディ宇宙センター スペースシャトル 基地

ここがスペースシャトルの工場です。機体の組み立てやメンテナンスが行われます。
大きいといえば大きいし、それほどでも……といえば、そうだし。想像以上にコンパクトな印象。

NASA ケネディ宇宙センター スペースシャトル 工場

打ち上げになると工場からシャトルが運び出されます。黄色い砂利道が移動台車の通り道。

スペースシャトル 移動用道路

シャトルを運ぶ移動台車。台車といっても、巨大なキャタピラです。

移動台車 キャタピラー

発射台は工場のすぐ傍にあるようなイメージだけども、とんでもない。
何かトラブルがあって、爆発、炎上するような事があれば大変ですから、発射台は主要施設から離れた、海岸近くにあります。
これだけの距離を台車で移動するわけですから、搬出だけでも一日がかりだそうです。

スペースシャトル 搬送用道路

スペースシャトルの発射台。

スペースシャトル 発射台

まさに工場と呼ぶにふさわしい作り。
本来、ツアーの翌日が打ち上げ予定で、セットアップされたシャトルを見学できたのですが、あいにくの悪天候で、一週間ほど延期。残念です。

スペースシャトル 発射台

メイン施設ではアポロが展示されています。

展示場のアポロ

展示場のアポロ

こちらは最近オープンした初代スペースシャトル『アトランティス号』の展示場。本物です。

アトランティス号 展示場

スペースシャトル アトランティス号 内部

施設内には、打ち上げを体験できるシミュレーション・シアター(座席がぐぐーっと傾斜して、身体に負荷がかかる)、子供向けのTVゲーム、滑り台など、娯楽の要素もいっぱい。

スペースシャトル シュミレーションシアター

飛行士らは、このバスにのって発射台に向かいます。緊張の一瞬ですね。

宇宙飛行士 送迎用バス

こちらは着々と準備が進む火星探査機の発射台。2030年が目標です。

火星探査機 発射台

気になる居住施設はこんな感じ。立ったまま、壁に身体を固定して寝る。やはり私には無理です。

スペースシャトル 居住施設 ベッド

無理……私には無理……。

スペースシャトル トイレ

人はお金だけでは動かない

ケネディ宇宙センターは、いわば夢を見せる場所です。

もちろん、先人の偉業を称えたり、最先端の技術を展示したり、宇宙科学に即した催しがメインですが(愛国心の高揚もある)、その根底にあるのは何かといえば、やはり『夢』。「火星に行ってみたい」「ブラックホールの謎を解明したい」「宇宙の起源が知りたい」。ほんと、子供の作文みたいな夢や好奇心や空想が根底にあって、その上に、技術やマネタイズが成り立っている。そういう印象を受けます。

正直、遠い銀河や太陽系の成り立ちを知ったところで、現実生活が劇的に変わるわけではありません。社会に役立つというなら、家事ロボットや自動運転車、爆速サーバーや太陽光充電器みたいなものの方が、よほど有り難いでしょう。それでも、ある人は宇宙の起源を研究し、ある人は地球外生命を追い求める。何十年後に実現するか分からない宇宙コロニーや、本気で光速を超える恒星間飛行について考えを巡らせている人もあるかもしれません。

だけども、いつかはそれが必要になる。

現実問題、いつかは太陽が膨張し、地球上の文明も跡形もなく消え去ってしまうし(20億年ほど未来の話だけども)、百年後か二百年後には壊滅的な自然災害や公害が生じるかもしれない。隕石の衝突も、決して有り得ない話ではない。あるいは、新たな資源供給地が必要になるかもしれない。その時になって慌てて研究を始めても、今日明日に技術が確立するほど単純ではありません。

では、今なぜ、遠い銀河や地球外惑星を目指すのか。

それは遠い未来に備える為もあるし、謎を解明することが現在の様々な自然問題を解決する可能性もある。

その過程で新たに創出される技術もあれば、研究そのものが国際的な相互理解や協力を促すこともある。

決して夢や憧れだけでNASAを運営しているわけではないでしょう。

が、その一方で、人間にはロマンがあり、哲学があり、知的好奇心がある。高い月給や報酬が約束されたとて、それだけで命を賭けるほどのミッションには挑めないでしょう。果てしない研究と試行錯誤の日々もです。

NASAの展示物を見ながら思うのは、次代の担い手を育てようと工夫を凝らしていること。

宇宙科学が一代限りの研究でないことは、研究者自身が一番よく知っています。そして、次の世代に、志の高い、優秀な人材を得ることは、自分たちの研究を存続することでもある。せっかく途中まで分かりかけても、次の世代が何もしなかったら、可能性もそこで終わってしまうんですね。

そして、そうした人材を得るには、「儲かりますよ」だけでは無理。お金が目的なら、お金を得た時点で終わってしまうし、もっと実入りのいい仕事があれば簡単にそっちに移ってしまう。一日二日で結果の出ない研究に、精魂込めて打ち込もうと思ったら、やはり心に触れるものがなければ人は動きません。そのきっかけとなるものは、やはり美しい星空であったり、子供の頃に見た宇宙センターの展示物であったり、打ち上げの中継だったり、心を震わすような深い体験だと思うのです。

人間、優秀であればあるほど、精神的な充足や社会的使命を求めるし、まして宇宙科学のように、今すぐ何かの役に立つわけでもない、真理など永遠に分からないかもしれない、息の長い研究であれば、動機や目標となるものは営業マンとは全く異なると思います。そして、NASAが一所懸命にアピールしているのは、その部分なのです。

子供の頃からケネディ宇宙センターに親しんで、スペースシャトルの打ち上げも間近で見ていれば、心に訪れるものは、何も知らない子供より、はるかに深く、強いでしょう。

そして、今日、この場でスペースシャトルの発射台や『アトランティス号』に見入っている子供たちの中から、未来の惑星物理学者や宇宙工学者などが誕生するのかと思うと、NASAがお金をかけて必死にやっていることは決して無駄ではないと思うのです。

NHKスペシャル『宇宙』

NHKスペシャルの科学ものはBBCやNational Geographicより上出来だと思います。
このシリーズも公開からかなり年月が経っていますが、今見てもCGや天体写真の美しさに感動します。宇宙ものの中では最高傑作です。

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この記事を書いた人

石田 朋子

文芸愛好家&サブカルチャーファン。主に70年代~90年代の作品に思い入れがあります。好きな言葉は寺山修司の「詩を作るより、田を作れ」。昨今の生産重視の風潮にささやかに反抗しながら、古典文学や芸術の魅力を紹介。科学は生物学と地学のファンです。

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専門用語は極力使わず、海洋科学や建築の予備知識がない人でも分かりやすい内容に仕上がっています。