アフシュライトダイク(締め切り大堤防)

『夢を叶えたい』という人はたくさんいると思う。

また、何をもって「叶った」とするかは、十人十色だろう。

イチローのように、一流のプロ野球選手になって、第一線から退いて、それでもまだ「夢が叶った」とは言い切れない=道半ばと感じる人がいることを思うと、夢なんてのは、叶った瞬間より、追いかける過程の方がはるかに価値があるのだろう。

というより、人生は夢を叶える過程そのもので、「夢が叶う瞬間」なんてものは、きっと何処にも無いのだと思う。

あるとすれば、目標を達成することぐらい。

達成してしまえば、翌日からはまた現実との闘いだ。

「夢が叶ったから、やれやれ」なんてことは永久にない。

そういう意味で、夢を大事にする人は、永久に夢追い人であるし、それで間違いないのだと思う。

なぜって、人生から夢も目標も失われたら、無味乾燥な、空虚なものしか残らないからだ。

とはいえ、自分が見つけた『運命の海』と付き合える人は少数。

多くの人は「夢を叶えたい」と望むけれど、「どうすれば○○になれますか」という方法論ばかり追いかけて、自分で実践することは考えないからだ。

旅行に喩えれば、「絶対に雨の降らない日に、確実に楽しめる場所を教えてください」と尋ねるようなもの。

ベテランガイドが30年の経験を積み重ねても、「絶対に雨の降らない日」や「確実に楽しめる場所」は保証できないのに、その保証がなければ、旅にも出ないし、準備もしない……というのでは、いつまでたっても、何所にも行けない。

事前調査で「降雨量の少ない季節」「満足ランキングの高い観光施設」を知ることはできても、旅先で何が起きるかは、その時まで分からないからだ。私のように、ベルばらに惹かれてパリを旅してみたら、着いたその日に地下鉄で少年少女窃盗グループに300ユーロの入った財布をスラれた人間もいる(T^T) ガッデム、フランス。ネバーアゲイン、パリ。フランスが苦手なのは、ヴァルター・フォーゲルだけではない。

だからといって、パリ旅行を後悔するだろうか。

どんな所であろうと、夢に終わるより、レストランの店員は愛想が悪いわ、セーヌ川の橋の下は鳩のフンだらけだわ、オスカルみたいなパリジャンばかりと思い描いていたら、十数年後の深刻な社会問題の種はすでに蒔かれていたわ……と分かっただけでも価値はある。何より、「そこまで行った」という達成感は何にも代え難い。

人生の夢もそれと同じで、叶わないから意味がない、報われないからやるだけ無駄……というのは、一番効率の悪い考え方ではないだろうか。

「絶対に雨の降らない日」や「確実に楽しめる場所」を探し回るうちに、気力も体力もある若い時代をふいにする人は少なくないし、それが分かるまで何もしない人もいる。
傍がアドバイスできるのは、「降雨量の少ない季節」や「満足ランキングの高い観光施設」ぐらいであって、皆が皆、ルーブル美術館やエッフェル塔に行けば満足するのかといえば、決してそうではなく、フランスも南仏の田舎や北の沿岸など廻ってみると、パリとは比べものにならないような幸せに出会うこともあるはずだ。たとえ雨に降られても、ロダンの彫刻は素晴らしいし、自分の憧れの土地を訪れるのは格別である。
旅行というのは、自分の足で歩き回って、ガイドブックには載ってないことを体験する、そのこと自体に意味があるのだ。
「どこそこに行った」という事実は、単なる自慢話でしかない。

そんな訳で、人生の最後に残るのは、自分が何を為したか――という思い出だけだと改めて記しておこう。

中学校の地区大会で優勝した事実も、なんとか委員に選出されたことも、五十代、六十代にもなれば、もう忘れているだろう。

いまだに三十年前のコンテストで表彰されたことを嬉々として語る老人など、痛い人でしかないだろう(今は何もしていない)。

それより、永久に何かを続けている人の話の方がうんと面白いはずだ。

その日は雨が降るかもしれない。その場所も期待したほど面白くないかもしれない。

カネと時間の無駄を覚悟してでも、自分の行きたい場所に行ってみる。

それでしか、真の達成感は得られない。

何故なら、それこそが自分に正直な生き方だからだ。

ちなみに私は『アフシュライトダイク(締め切り大堤防)』に二回行った。

一度目は、執筆前。二度目は、執筆後。

当然のことながら、こんな場所に行く日本人観光客は皆無だ。

ベテランのガイドさんにも、「そんな場所があったけ?」と言われた。

それでも行った。この目で見たいと切望したからだ。

そして、二度とも、素晴らしい好天に恵まれた。

二度目は自分でドライブする、という夢も叶った。

その他のことはネットでは書けないが、実に素晴らしいことが幾つかあった。

周りに話しても、「そんな所に行って何をするの」と言われ、現地のオランダ人にも「そんなにいいですかぁ」と言われる。

それでも行くから、空も晴れるし、写真にも残る。

そんでもって、私にアフシュライトダイク(締め切り大堤防)の魅力と「《God schiep de Aarde, maar de Nederlanders schiepen Nederland(世界は神が創り給うたが、ネーデルラントはネーデルラント人が作った)》」について語らせたら、日本随一と思う(爆)

その自負は、夢に懸けた者にしか分からない。

イチローだって、こう言うだろう。

「メジャーリーグに行ったら、こうなった」

メジャーリーグが偉大な選手を作るのではない。

とにかく行ってみないことには、メジャーリーグの選手にだってなれないのである。

締め切り大堤防と土木技師の矜持 水害から干拓地を守る ~オランダの堤防探訪より。

アフシュライトダイク(締め切り大堤防)
最新情報をチェックしよう!
>Kindle Unlimited

Kindle Unlimited

宇宙文明の根幹を成す稀少金属《ニムロディウム》をめぐる企業の攻防と社会の展望を描いた本格的な海洋ロマン。
「これが生だったのか、それならよし、もう一度」をテーマに人と社会、仕事と生き甲斐、恋と女性のライフスタイルなどを描いた人間ドラマです。Kindle Unlimitedなら読み放題。

CTR IMG