吹けば飛ぶような命でも、後進に道を示すことはできる。

人間の真の偉大さは、「明日世界が滅ぶと分かっても、リンゴの木を植える」という精神にあると思う。

どんな動物も、生命の連鎖の中に生き、次代に繋ぐことも遺伝子(本能)に組み込まれているわけだが、人間は、それに加えて、自らの意思でそれを選ぶことができる。たとえ世界に核の嵐が吹き荒れても、干ばつで大地が干上がっても、どこかにか次代の種を植えずにいない。それが本能ゆえか、培われた高貴さかは分からないけれど、常に次代を思わずにいないのは、《生きよう》とする意思は、地上のあらゆる力を凌駕するからに違いない。

以下は、断崖のパートで挿入するだったはずの一文。

二度目の悲劇に遭遇し、何もかも失った中で、ヴァルター・フォーゲルが呟く台詞だった。

吹けば飛ぶような命でも、後進に道を示すことはできる。

彷徨い人の道標となる、揺るぎない指針だ。

第六章 断崖のボツ

人ひとり、何の力もなくても――自分が生きているうちに大した事は成せなくても――後進に道を示すことはできる、という意味で。

後に続くものが豊かなら、誰の人生も報われる。

絶望の中でも顔を上げ、明日に立ち向かう時、どんな人も強く、美しい。

Photo:David MarkによるPixabayからの画像

この記事を書いた人

石田 朋子

文芸愛好家&サブカルチャーファン。主に70年代~90年代の作品に思い入れがあります。好きな言葉は寺山修司の「詩を作るより、田を作れ」。昨今の生産重視の風潮にささやかに反抗しながら、古典文学や芸術の魅力を紹介。科学は生物学と地学のファンです。

曙光 MORGENROOD

Kindle 電子書籍

本作はアクション満載のSFではなく、人間ドラマに重点を置いた古典的な文芸作品です。
専門用語は極力使わず、海洋科学や建築の予備知識がない人でも分かりやすい内容に仕上がっています。